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山の上ホテル物語常盤新平池波正太郎山口瞳高見順三島由紀夫
「良質のものは、いつも少ししかない」ということを肌で感じる、知的でオシャレで小さなホテル。創業50年を迎えるこのホテルの裏方たちを訪ねて知る、静かで深い良質へのこだわり。
神田駿河台の小高い丘の上に山の上ホテルが誕生したのは、1954(昭和29)年1月のことである。以来このホテルは作家など多くの文化人たちの常宿として、あるいは憩いの場としてずっと愛されつづけてきた。本書はそんな山の上ホテルの創業からの50年を、従業員へのインタビューも交えて描いたノンフィクションである。著者は翻訳家でもあり直木賞作家。自らもこのホテルに深い愛着を持っている。
多くの作家に愛され、数々の名作を生み出す影の力となった、すてきなホテルのすてきな物語。
創業者をはじめ、支配人たちが語る作家たちの素顔を通して、50年にわたる文壇の一面を浮き彫りにするとともに、特別なホテルを目ざすスタッフたちの情熱をあますところなく伝えている。
当然ながらこのホテルは、小説家だけのホテルではない。わがままで好みのうるさい作家たちを満足させるホテルは、サービスの行き届いた宿に泊まりたいと願う一般の宿泊客をも、充分に満足させてきた。一度は泊まってみたい、特別なホテルの特別なサービスを、著者の温かい筆致によって、読者は心地よく楽しむことができるだろう。
Uブックス化にあたり、坪内祐三が解説を執筆し、花をそえている。「良質のものは、いつも少ししかない」ということを肌で感じる、知的でオシャレで小さなホテル。創業50年を迎えるこのホテルの裏方たちを訪ねて知る、静かで深い良質へのこだわり。
池波正太郎、山口瞳、高見順、三島由紀夫など昭和文壇のそうそうたる顔ぶれが常宿としていたことでも知られるこのホテルを一代で創り上げた吉田は、サラリーマンから転身した異色の創業者。独自の経営姿勢と人柄が、親子関係にも似た強い絆で結ばれた社員達の口から熱く語られる。
清楚な雰囲気
小さなホテル
本館三十五室、新館四十室
モーツァルトの小曲
心に沁みるサービス
マニュアルは大嫌い
怒る人
この社長となら
自前の社員
寡黙の人〔ほか〕
レビューより
山の上ホテルが閉館になり寂しい気持ちです。
常盤新平さんの山の上ホテル物語は、読みやすくホテルの歴史を奥深く知ることができた一冊でした。
頑固なまでの創業者吉田と陰で支える妻玲子・その後継者と、取り巻く文豪たちが育て上げてゆくさまは大変興味深く面白い。
著名な作家たちが、原稿を書くためにカンヅメになるホテル、そして食事のおいしいホテルとして有名な山の上ホテルのドキュメンタリー。亡き創業者の吉田社長について、古参の社員たちが様々なエピソードを語る。生涯を社長の顔や人柄を近くに感じ、転勤もなく働くということに息苦しさを多少は感じるものの、人に惚れ、職場に惚れて生涯働くということに羨ましさを感じる。時代とともに変わらない最高のサービスを提供し続けている都心の静かなホテルを久しぶりに訪れたくなった。写真や、作家たちのコメント、社長自ら手掛けた広告のコピーなど、山の上ホテルの雰囲気を読みながら感じることのできる資料も豊富である。