この巻におさめたのは、わたしが折にふれて書いたり話したりした日本の歴史をめぐっての発言である。

 東大出版会の編集者だったとき、さいしょに北山茂夫さんの『万葉の世紀』、つぎに林屋辰三郎さんの『中世文 化の基調』を出した。それから日本史関係の本をつぎつぎと出版し、それにつれて門前の小僧式に戦後の日本史研 究を習った。戦後さいしょの日本史ブームの一翼――しかし着実な一翼だったと自負している-――を編集者としてになったのである。その一つのまとめとして、歴史学研究会と日本史研究会との共編で『日本史講座』全八巻をつくった。東京mtの井上清、石母田正、松本新八郎、 遠山茂樹さんたちと、京都の北山 林屋、奈良本辰也さんたちとが会合して、全書版のハンディmtな型ながら当時の研究水準を保った講座ができていくのに立会えたのは、わたしの忘れえない思い出である。このとき京都の門脇禎二、上田正昭、黒田俊雄さんといった新鋭が、たまたま京大文学 一部の先輩だというので、わたしがなすべき編集雑務まで助けてくれた。

 この講座ははじめて「戦後十年史」を独立した巻としてたてた。このとき「戦後の思想」という項の筆者をえらぶのに難行し、北山さんの断でわたしが書くことになった。編集者としては邪道であったが、この「戦後の思想」 がもとになってのちの『戦後思想史』ができたのだから、北山さんたちとのお付合がその後のわたしを決定したともいえるわけである。

 若かったわたしは林屋さんを鹿ヶ谷の旧居にお訪ねして、唯物史観の論議をふっかけたりした。東京へもどって その話をしたら、石母田さんがおどろいて、林屋さんはよくそんな議論に付合いましたねと言った。

以下省略

一：「邪馬台国」問題 

「邪馬台国」との出逢い はじめは「大和説」 「北「九州説」への転向 古田説の弱点 中央政府の史書同士をつなぐな われわれ自身の歴史 北方から開けた歴史 八ヶ岳・諏訪の歴史 丹波元伊勢から伊勢への 歴史「継体王朝」 起源 卑弥呼 「衆を惑わす」

二：日本人はどこから来たか

ウイルスが語る日本人の起源 民族の起源に関する諸説 農耕と言語 北方からの歴史びらき

三：日本歴史の方位

歴史の方位 世界史の「宿命」的構造 日本史の東行 西行

四：古代慕心

花の心 人心の動向のふしぎさ 異質を求める心 開いた" 古代研究者として回り道

五：冠伝わって来た道

騎馬民族の南下 冠を出土した古墳 新羅系の継体王朝

一：歴史の中の日本神話

1 国生み・国つくり

イザナキ・イザナミ 火神カグツチと穀物起源神話 オオナムチ 出雲神話の比重

2日の御子の降臨

アマテラス 太陽神サルタヒコとアマノウズメ ホノニニギ 

3ヤマトの国びらき

オオモノヌシ ハツクニシラス大王 ヤマトタケル

4 東アジアとの交渉

アマノヒボコとオキナガタラシ 山幸彦・海幸彦とmt コノハナサクヤヒメ

二：日本人の自然観

1 寄物陳思の歌

ネイチャーのコピーは進歩か 人間と環境のあいだに生まれてきた断絶 ネイチャーとともにあった人間を考え直すこと『万葉集』『古事記』などにあらわれた日本人の自然観 植物学者、前川氏の見事な 解釈と展開 家持が歌う自然はもはや対象として

 一： 滅びゆく階級

1鮮烈なヨーマンリー像 ヨーマンリーと維新下級武士のちがい 露八と東陽と 有機的知識人と伝統的知識人 見事に転身した開成所グループ 柳北の気骨 我慢の精神

二：屈服した大衆文化

大衆文化を培った大正デモクラシー 大正文化主義の崩壊 西条八十抒情詩の背景 憂欝な時代 家族共同体の崩壊 崩壊期の大衆文化 妻・無法松と吉川・ 武蔵

三：昭和五十年の遺産 

アメとムチの出発 二重構造の解消 集団自殺へ追い込むシステム 色彩化と自然破壊の関係 失われた価値のシンボル・グリーン 現代の無常

四：日本人の家系さぐり

わが家の歴史 現代社会と家系さぐり 家系さぐりの意義

五：現代人の渇き

クダショウ 近代合理主義の呪い 神なき世界の二十世紀 傲慢さの報い・公害 同質世界の空しさ 異質のものへの憧れと渇き

自釈・自

他釈・自注